本当に「飛ぶアイアン」が必要?スコアが変わる"飛ばない"クラブの選択肢
【逆転の発想】スコアが変わる?あえて「飛ばないアイアン」を使う意外なメリット
最新のゴルフクラブは飛距離性能の向上が目覚ましく、「いかに遠くへ飛ばすか」が注目されがちです。しかし、本当にスコアアップに必要なのは飛距離だけでしょうか? 今回は、私自身が約25年前の古いアイアンを実際にコースで使用し、そこで発見した「飛ばないアイアン」ならではの驚くべきメリットについて、実体験を交えながら深く掘り下げていきます。
古いアイアンとの出会い:なぜ今、"飛ばない"クラブなのか?
私が最近、古いアイアンを使うことになったきっかけは、少々個人的な話になります。新しいクラブへの投資対効果をつい考えてしまい、なかなか最新モデルに手を出せずにいたところ、見かねた生徒さんから「使っていないアイアンがあるから」と、名器と名高い「NB32EX」(湯原信光プロモデル)を貸していただく機会に恵まれました。これは、今から約25年以上前のモデルです。
このアイアンは、現代のクラブと比較すると明らかに「飛ばない」設計になっています。
- ロフト角: 例えば7番アイアンで34度。現代の標準的なアイアン(30度前後)や、いわゆる"飛び系"アイアン(20度台後半)と比較すると、1番手から1.5番手ほどロフトが寝ています。当然、打ち出し角は高く、飛距離は出にくくなります。
- ネック形状: フェース面がシャフト軸線より少し後ろに引っ込んでいる「グースネック」。重心距離が短くなりやすく、ボールの捕まりが良いとされる一方、操作性においてはストレートネックを好むプレイヤーもいます。
- 打感: 軟鉄鍛造で作られていることが多く、芯で捉えた時のソリッドで柔らかい打感は、現代の複合素材ヘッドとは異なる魅力があります。
室内練習場の高精度計測器「GC Quad」で計測しても、やはり飛距離は普段使っているクラブより1番手以上落ちていました。「これでコースで戦えるのか?」と一抹の不安を抱えながらラウンドに臨んだのです。
実戦で感じた「飛ばないアイアン」最大のメリット:飛びすぎない安心感
ところが、実際にコースで使ってみて、この「飛ばない」という特性が、いかに大きなメリットであるかを痛感しました。最大の利点は「飛びすぎるミスがほぼなくなる」ことです。
現代のアイアン、特にストロングロフト化された飛び系アイアンは、少し芯を食うと思った以上に飛んでしまい、グリーンオーバーのミスを招くことがあります。これを恐れるあまり、無意識のうちにインパクトで力を緩めてしまったり、番手選びで迷いが生じたりすることがありました。
しかし、ロフトが寝ている古いアイアンは、多少当たりが厚く入っても、極端に飛距離が伸びることがありません。もちろん、当たりが薄ければショートしますが、「飛びすぎてOB」や「奥のハザードに捕まる」といった、スコアに直結する大きなミスを防げる安心感は絶大です。
なぜ「飛ばない」としっかり打てるのか?
- 心理的な安心感: 「飛びすぎない」という前提があるため、グリーンオーバーの恐怖から解放されます。これにより、インパクトで緩むことなく、しっかりとボールを打ち抜くことに集中できます。特に、奥にハザードがあったり、下り傾斜が待っていたりするピンポジションでも、自信を持ってピン方向を狙っていけるようになります。
- クラブの特性: 古いモデルのアイアン(特にマッスルバックやハーフキャビティ)は、現代の低・深重心設計のアイアンに比べて重心位置が高めです。重心が高いクラブは、ある程度ダウンブローにヒットしないとボールが上がりきらず、性能を発揮しにくい傾向があります。そのため、自然と「上からしっかり打ち込む」意識が働きやすくなり、結果的にインパクトが安定する可能性があります。また、スイートスポットが比較的小さいため、芯で捉える練習にもなり、技術向上につながる側面もあります。
- 抜けの良さ: 今回使用したNB32EXは、ショットメーカー向けモデルということもあり、ソール形状が秀逸で、ラフからでも非常に抜けが良いと感じました。これも、インパクトで躊躇なく振り抜ける要因の一つです。
この「飛びすぎない安心感」によって、番手間の距離を正確に打ち分けやすくなり、縦距離のコントロール精度が格段に向上しました。これは、スコアメイクにおいて飛距離以上に重要な要素です。
現代のクラブ vs 古いクラブ:どちらが良いのか?
では、現代の飛ぶアイアンがダメで、古いアイアンが良いのかというと、決してそういうわけではありません。現代のクラブには、以下のような明確なメリットがあります。
- 飛距離性能: ストロングロフト化や高反発素材、低重心設計により、楽に飛距離を稼げます。同じ距離を短い番手で狙えるため、ミート率が上がり、方向性も安定しやすくなります。
- 寛容性(やさしさ): スイートスポットが広く、重心が低く深いため、多少打点がズレても飛距離や方向性のロスが少なくなっています。ミスヒットに強いのは大きな魅力です。
- 高弾道: 低重心設計により、ボールが上がりやすくなっています。グリーン上でボールを止めやすいというメリットがあります。
一方で、古いアイアンには今回述べた「飛びすぎない安心感」に加え、
- 操作性: 重心距離が短いモデルが多く、意図的にボールを曲げたり、弾道をコントロールしたりしやすい場合があります。
- 優れた打感: 軟鉄鍛造などの素材・製法による、フィーリングの良さを重視するゴルファーには代えがたい魅力があります。
- 適度なスピン性能: ロフトが寝ているため、スピンがかかりやすく、グリーンでボールを止めやすいという側面もあります。(ただし、現代のクラブも溝規制の中でスピン性能を追求しています)
どちらが良いかは、ゴルファーのレベル、スイングタイプ、求めるものによって異なります。大切なのは、流行やスペックだけで判断せず、自分に合ったクラブを見つけることです。
【提案】クラブ買い替え検討中なら、一度「古い名器」を試してみては?
もし今、アイアンの買い替えを検討しているなら、最新モデルだけでなく、一度中古クラブショップなどで少し古い世代のアイアン(特に名器と呼ばれるモデル)を試打してみることを強くお勧めします。
試打のポイント:
- 先入観を捨てる: 「古い=飛ばない、難しい」という思い込みを捨てて、まずは打ってみてください。
- フィーリングを重視: 構えた時の顔つき、打感、振り心地など、自分の感覚に合うかどうかを大切にしましょう。
- 飛距離は気にしすぎない: 大切なのは「自分の思った距離を安定して打てるか」です。他の人が7番で打つ距離を6番で打つことになっても、それが安定していれば問題ありません。番手表記に惑わされないようにしましょう。
- 状態を確認する: 中古クラブの場合、シャフトの状態(サビ、曲がり、へたり)、グリップの消耗度、ネック周り(ライ角・ロフト角調整の跡がないか)などをチェックしましょう。可能であれば、試打だけでなく、実際にコースで使ってみるのが理想です。
意外な発見があるかもしれません。もしかしたら、あなたが長年悩んでいた「インパクトの緩み」や「縦距離の不安定さ」は、クラブを変えることで解決する可能性だってあります。
幸い、20~30年前のアイアンセットであれば、状態にもよりますが、1万円台後半から2万円程度で手に入ることもあります。最新モデルを買う前に、少ない投資で試してみる価値は十分にあるのではないでしょうか。
飛距離追求もゴルフの楽しみの一つですが、「飛ばない」ことのメリットに目を向けてみることで、新たなゴルフの境地が開けるかもしれません。ぜひ一度、"温故知新"のクラブ選びを試してみてください。


